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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

吉川英治『治郎吉格子 名作短編集(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:治郎吉格子、増長天王、醤油仏、八寒道中、野槌の百、銀河まつり、無宿人国記、雲霧閻魔帳。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 页

青空文庫

三

三

あぶら蝉、みんみん蝉、日光山がジイ――ッと啼いているようだ。

「馬鹿なやつじゃねえか。あれが、ほんとの、自暴のやん八」

香りの高い檜の板を、削り台にそろえて、十人ばかりの大工が、絹よりうすい鉋屑を舞わせながら、

「ふふむ、あの浪人者か。山の大賭場へ割りこんで、素ッ裸に、取られたっていうなあ」

「素人のくせにしやがって、諸国の親分が出張っている盆へ行って、商売人の金を取ろうっていう量見が、第一、押しがふてえ」

「だが、毎日、そっちこっちの工事場で、寝てばかりいやがって、邪魔になってしようがねえな」

「先へ行く路銀も失くなったんだろう。賭場をのぞいちゃ、金をゆすッて、ああして、酒ばかり食らってやがる。――まさか、左官や塗師の手伝いもできず、侍もああなっちゃお仕舞だな」

「叱ッ……。やたらに、大けえ声を出すな。眼をさますぞ」

鉋音を止めて、職人たちは、後ろを見た。板小屋の横の板束の上に、清水一角は、涎れをたらして、寝ていた。

連れの銀六老人は、いつともなく、別れたものと見える。

「ううむ……」と、寝返りを打って、あぶなく、板束の上から、転がりかけて抱きついた。

毛脛が、出ている。