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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

吉川英治『治郎吉格子 名作短編集(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:治郎吉格子、増長天王、醤油仏、八寒道中、野槌の百、銀河まつり、無宿人国記、雲霧閻魔帳。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 页

青空文庫

秘法盗

「旦那、鈴木の旦那」

その時、誰か後ろから呼びかけた声を聞いた。ふり顧ってみると、久米一の細工邸にいる窯焚きの百助という男。

「なんだ、お薪山か? ――」

「いいえ、少し旦那のお耳に入れておきたいことがありましてね」

ばかに生まじめな顔をして、寄ってきた。

秘法盗

「今、あわてて逃げだした男女は、久米一の娘の棗さんと絵描座に仕事をしている、兆二郎という若造ですぜ」

と窯焚きの百助、いまいましそうに鼻をこすった。

「ああ絵描座の兆二郎か、年は若いが、だいぶ仕事の筋はいいそうではないか」

「そりゃ絵筆も巧者でしょうが、女にかけてもするどい野郎で、いつの間にか、師匠の娘とあの通り乳繰合っているんです」

「まあいいではないか、いずれ久米一も娘の棗に、婿をとらねばならぬ身だ」

「え!」百助は不服なつらをおさえつけて、「そいつをとやこういうわけじゃありませんが、どうでもお上へ訴えなけりゃならねえことがあるんで、わっしは、そいつを旦那の手柄にさせてえと思いましてね」

「訴える? 何をだ」

「あの兆二郎という奴は、たしかに御用窯の秘法を盗みに来ている廻し者ですぜ」

「百助、まさか、いたずらごとを申すのではあるまいな」