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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
吉川英治『治郎吉格子 名作短編集(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:治郎吉格子、増長天王、醤油仏、八寒道中、野槌の百、銀河まつり、無宿人国記、雲霧閻魔帳。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 页
いなずま八荒
一
絶家、物笑い。――わしは近所に住んで、御気性も知っておるで、犬死にはさせとうない。逃げたらどうだ、今のうちに」
「あなたまでが、拙者を、左様な、卑怯者と……」
「いや、逃げるといったのは、わしが悪い。冤を雪ぐのだ、潔白を立てるのだ。――それには」
「は」
と、丈八郎の眼が光った。
「一角の首を、米沢へ、引ッさげて帰藩する。それより潔いことは、あるまいが」
「有難う存じます。よくこそ、御注意を」
で、――なくとも、燃えるような憎悪。血こそちがえ、姉の仇。
彼の家も、それから、ここ二、三日の後には、住み手のない空家となった。まだ、狼藉の夜の足痕の残る、裏庭の連翹の花は、春をいたずらに、みだれて咲いて――。
「若いな。……は、は、は」
その二人を、門口から見送った朝、何か、意味ありげに、こう笑って、吾家へはいった老人は、これまた、俄かに、旅支度をして、いつの間にか、米沢からいなくなっていた。
いなずま八荒
一
(おや? ここでも会った。――妙に何処でも会う老人)
と、思うまに、駕のタレを刎ね上げた一角の姿を見つけて、先でも、同じように、
(おや)
と、いう眼いろを閃かせた。