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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

吉川英治『治郎吉格子 名作短編集(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:治郎吉格子、増長天王、醤油仏、八寒道中、野槌の百、銀河まつり、無宿人国記、雲霧閻魔帳。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 页

青空文庫

小耳に挟む、路傍の人の話にも――

「呆れたね」

「どうしても、今自雷也だ」

「奉行所も、手を焼いているッてじゃねえか。折角、捕まえたと思ったのは、偽雲霧でよ」

「役人面アねえや」

「舌を出して、笑ってら。どこかで、ほんとの雲霧が」

「そうとも、当節のボケ役人なぞに捕まるような、間抜けな雲霧じゃねえと、俺ア、初めッから睨んでたんだ。――だが、胸がスウッとしたな、夜叉権の一件にゃあ」

「強慾な金貸野郎が、あんな目に遭うなあ世間の薬だ」

「今まで、彼奴のために、泣きを見せられていた貧乏人達ゃあ、大欣びで、赤の飯を炊いたろう」

「雲霧大明神か」

「お互いに、あんまり、非道な金は、絞るめえぜ」

「下手あすると、次は、三井だって、あぶねえことさ」

「ホイ、今日は、餅撒きだ。早く行かねえと、仕舞いになるぞ」

そんな話を行く先々、人間の群れる所で、彼は聞いた。

「役人からも、世間からも俺ア、何日の間にか、偽者と決められていたんだ」

不意に、運命の門口が変った体を、どこへ持って行ったらいいか、彼自身にもまだ分らなかった。

華やかな騒音と、人浪に誘いこまれて、うかうかと室町の角までくると、屋根から飛んできた切餅が一つ、雲霧の顔にぶつかった。