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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

吉川英治『治郎吉格子 名作短編集(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:治郎吉格子、増長天王、醤油仏、八寒道中、野槌の百、銀河まつり、無宿人国記、雲霧閻魔帳。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 页

青空文庫

「飛んだ、世話になったね」

「いやですよ、若旦那」

「折角だが、ちと急ぐから、また四季亭か、向島か、いずれ呼んだら、来ておくれ」

「どうして。――何か怒ったんですか、若旦那」

「何さ、ちと、家に事情があって」と、金を一両ほど無心して、呆っ気にとられる鶴松の顔を、格子の中に捨てると、振り向きもせず、新道から歩きだしていた。

(そうだ、よそながら、線香の一本も上げてやろう)

彼は、風呂場の中で、思いついた。

初めの意気も、約束も失ったので、今では、義兄弟とも、乾分とも、思っていないが一度は、間の山の初日の出に、大盗立志伝中の人間になろうぜと、血をすすり合った事もある四人の最期に――。

「駕屋、千住まで」

と乗ったのが、もう午近いころ。

垂れを鳴らして、その駕が、葭町の辻を斜めに切ると、すぐまた、辻燈籠と芽柳の間に、ひょいと、姿を見せた十八、九の若い武士が、

「駕屋駕屋、もう一挺――」

と、あわただしく、手を上げた。

その侍は、今朝から、室町の餅撒きにも、照降町の新道にも、ちらちら姿を見せ、たえず雲霧の後を尾けていた。――聡明な眼と、機敏な動作は、すぐ、次の駕にひそんで、先のを追った。