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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

吉川英治『治郎吉格子 名作短編集(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:治郎吉格子、増長天王、醤油仏、八寒道中、野槌の百、銀河まつり、無宿人国記、雲霧閻魔帳。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 页

青空文庫

春の山に菌を求めているような役を、七、八年もやっていると武士らしい誇りや張合いはおろか、自分は人間だか兎であるかについて、ちょッと考えて見たくなる。

何か波瀾があればいい。

血の雨でも降るようなことが。

とまれ、余りにこの山は平和過ぎる。すぐ目の下の山間を眺め渡してみても、あっちの沢やこっちの山瀬に、四、五十戸の屋根が見えるが、それは皆、名陶色鍋島を焼く、御用細工人の陶器小屋で、人間がいるとは思えぬほど、イヤに寂莫とした景色である。

平和に飽くと平和な光景が、見るも気だるくなってくるらしい。

それが、杢之進をいよいよ憂鬱にさせて、何か、波瀾の来たらんことを祈りたくなる。

「それを思うと久米一は偉いやつだ」

杢之進は、いつか久米一から聞いた怪気焔を思いだして、いささか屈託を慰めようとした。

「いったわえ、いつか、あいつが。だめだだめだ若い奴らは、五年もこの山に棲むとカサカサになって寒巌枯骨のていたらくだ、陶土に脂も艶気もなくなってくる。そんな野郎は茶人相手の柿右衛門の所へ行ッちまえ。おれの山から作りだす色鍋島は、煩悩もあり血も通っている、人間相手の陶器を焼くんだ! と。