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あさくさふどき
浅草風土記
久保田 万太郎
雷門以北「東京日日新聞 夕刊」1927(昭和2)年6月30日~7月16日<br>吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年2月<br>続吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年3月<br>隅田川両岸「中央公論」1935(昭和10)年9月<br>浅草田原町「三田文學」1912(明治45)年2月<br>あやめ団子「花形」1920(大正9)年8月<br>相模屋の路次・浅倉屋の路次「新演藝」1920(大正9)年8月<br>浅草の喰べもの「中央公論 夏期特別號」1920(大正9)年7月<br>夏と町々「時事新報 夕刊」1929(昭和4)年6月1日~30日<br>絵空事「新潮」1932(昭和7)年3月<br>一年「東京新聞」1946(昭和21)年4月15日<br>浅草よ、しずかに眠れ「苦樂」1948(昭和23)年2月<br>夜店ばなし「婦人公論」1931(昭和6)年7月<br>除夜「週刊朝日」1930(昭和5)年12月28日號<br>正月「婦人公論」1932(昭和7)年1月<br>水の匂「文藝春秋」1941(昭和16)年7月<br>町々…… 人々……「別冊文藝春秋」1955(昭和30)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,294 字 · 318 页
橋場
橋場
横に大きく、
play
と書いて、その下に、縦に、
ボート
と、やや小さく書いた細長い行燈が暗い中に高くあがっている。……橋場の、隅田公園が尽きて間もなくのところの、河につづいたとある露地の角にである。
……涼んで、遊んで、爽快な良い気もちになって、ウンと業務能率を上げましょう。
……船を利用し、海洋を制するものは、これがやがて世界を制するものでしょう。
……男性も、女性も、水に親しみ船に興味をもつのは海国民の本能でしょう。
その行燈には、また、そうした文句が一ぱいに書いてあった。そして、その下に、ボート三十銭、スカール荷足五十銭、と小さく値段が書いてあった。
立留って、読み終ったあと、わたくしは、こんなことを書いて、一たいこれをだれが読むだろうと思った。……それほど、そのとき、人通りというものをもたないそのあたりだったから。
が、それは、そのときに限ったことではなく、人通りというものをおよそもたないのが橋場というその町本来のすがただった。すくなくも、十年まえ、十五年まえのその町はそうだった。……そして、わたくしに、そういわせるだけの、以前をそうおもい起させるだけのたのもしさを、その暗い往来の上にならんだ家々が……格子づくりの、小さい、しずかな家々のどこもがもっていた。