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あさくさふどき
浅草風土記
久保田 万太郎
雷門以北「東京日日新聞 夕刊」1927(昭和2)年6月30日~7月16日<br>吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年2月<br>続吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年3月<br>隅田川両岸「中央公論」1935(昭和10)年9月<br>浅草田原町「三田文學」1912(明治45)年2月<br>あやめ団子「花形」1920(大正9)年8月<br>相模屋の路次・浅倉屋の路次「新演藝」1920(大正9)年8月<br>浅草の喰べもの「中央公論 夏期特別號」1920(大正9)年7月<br>夏と町々「時事新報 夕刊」1929(昭和4)年6月1日~30日<br>絵空事「新潮」1932(昭和7)年3月<br>一年「東京新聞」1946(昭和21)年4月15日<br>浅草よ、しずかに眠れ「苦樂」1948(昭和23)年2月<br>夜店ばなし「婦人公論」1931(昭和6)年7月<br>除夜「週刊朝日」1930(昭和5)年12月28日號<br>正月「婦人公論」1932(昭和7)年1月<br>水の匂「文藝春秋」1941(昭和16)年7月<br>町々…… 人々……「別冊文藝春秋」1955(昭和30)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,294 字 · 318 页
五
――木枯、しぐれ、雪。……今戸橋のうえからみた短日の水のいろのあじきなさも忘れることが出来なければ、机のうえにのせた手ランプの下、英習字に運ぶペンの音にまぎれた虫の声のおぼつかなさも忘れることが出来なければ、霜の冷めたく満ちた空、すっかりもう葉をふるい落しつくした銀杏の梢の、その空の下にそういってもしずかに眠っているのを帰り路の格子のそとにたまたまみ出した心細さもわたしには忘れることが出来ない……
そのころ公園の常盤座に菊地武成という書生役者が出ていた。野暮な感じの二枚目で、色男の書生だの、主役の、なさけ深い探偵の役なんぞ巧かった。
「ねえ、香取先生は菊地に似ているじゃァないか。」
あるとき仲間の一人がふいにこういった。
「うん、そうだ、似ている。――そういえば似ている。」
わたしはすぐそれにこたえた。――前にいうのをわすれたが、先生はまた色も白かった
五
……そのあと、わたしは、首尾よく及第して錦糸堀の中学へ入り、入ると一しょに香取先生のところへかようことを止めた。なぜなら時間が許さなかったからである。――わたしと香取先生との交渉はそれで終った。
が、終ったといえば終った、それだけだったといえばそれだけだったものの、間接の、そうした直接でない交渉はずッとなおあとまでつづいた。