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あさくさふどき

浅草風土記

久保田 万太郎

雷門以北「東京日日新聞 夕刊」1927(昭和2)年6月30日~7月16日<br>吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年2月<br>続吉原付近「中央公論」1929(昭和4)年3月<br>隅田川両岸「中央公論」1935(昭和10)年9月<br>浅草田原町「三田文學」1912(明治45)年2月<br>あやめ団子「花形」1920(大正9)年8月<br>相模屋の路次・浅倉屋の路次「新演藝」1920(大正9)年8月<br>浅草の喰べもの「中央公論 夏期特別號」1920(大正9)年7月<br>夏と町々「時事新報 夕刊」1929(昭和4)年6月1日~30日<br>絵空事「新潮」1932(昭和7)年3月<br>一年「東京新聞」1946(昭和21)年4月15日<br>浅草よ、しずかに眠れ「苦樂」1948(昭和23)年2月<br>夜店ばなし「婦人公論」1931(昭和6)年7月<br>除夜「週刊朝日」1930(昭和5)年12月28日號<br>正月「婦人公論」1932(昭和7)年1月<br>水の匂「文藝春秋」1941(昭和16)年7月<br>町々…… 人々……「別冊文藝春秋」1955(昭和30)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,294 字 · 318 页

青空文庫

忘れもしない、去年、その日からちょうど一ト月たった四月の九日に、はじめてわたくしは、その焼けあとに立った。……仁王門もない、五重の塔もない、輪蔵もない、何もない……そして“本尊御安泰”としるした立札の、申訳ばかりにたったガランとした中を佇んだわたくしの胸にどんな思いがわいたか?……

――戯談だろう。……そんな手にはのらないよ。……しらばッくれるのもいい加減にしてくれ……

と、たとえば、そういって相手の肩を叩いたとせよ。

――こまったナ、そう種を知られちゃァ……

と、相手は、狡猾なわらいをうかべつつ、仁王門、五重の塔、十八間四面の本堂。……そうしたものの何一つ欠けるところのない、いままで通りの、完全な、うつくしい浅草寺境内をわたくしのまえにもって来て、しかも、きわめて容易に、その廃墟と入れかえてくれるにちがいない、といった気がわたくしの胸を一ぱいにした。……それほど、わたくしに、焼亡したその現実のすがたが信じられなかったのだ。

そのあと、わたくしは、嘗ての日の“富士横町”をあるいた。折から、しとしと雨のふる午前で……春雨というべくは、あまりにも陰気な降り方だった……わたくしは夢の中をたどるおもいだった……み渡すかぎりの蒼白い焼野原の中に……不思議に焼トタンの赤ッちゃけた感じがわたくしに来なかった……人の