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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
――よく見ると、そこに三人の人が泳いでいました、とさえは語った。
三人は川下のほうへ泳いでいったり、川上のほうへ泳いで来たりした。さえはまん中の一人が殿さまだろうと思い、舌が上顎へ貼りついたようになって、息をするのも苦しくなった。友達の二人もまん中にいるのが殿さまだと思ったらしい、やがてその三人が水からあがるのを見て、あれが殿さまよと囁きあい、芦の中でいっそう激しく身ぶるいをした。
――その方は痩せがたで背が高く、肌が眼にしみるほど白うございました、とさえは語った。眉が濃く、眼が澄んでいて、きりっとした一文字なりの唇が、おもながなお顔の中に際立ってみえました。
他の一人は中背の目だたない侍だったし、もう一人はずんぐりした躯に大きな頭で、色が黒く、ひどくぶ恰好にみえた。少女たち三人は、殿さまの眩いようなお姿にすっかり心を奪われ、これは自分たちの秘密であり、親きょうだいにも語るまい、と誓いあった。
――友達の一人はそのとき十一歳になっていましたが、自分はなんとかして殿さまのお側へあがるのだ、殿さまのお側へ召されるためならどんなことでもするつもりだ、ってわたくしに繰返し云ったものですわ。