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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

「珍らしいことじゃないさ」

「初めはほんとにそうだったの、正直に云うけれど、初めのころはあの人を見ると、ここんところに」おりうは下腹部へ手をやった、「ここんところの奥のほうに、ちょうど手を握ったくらいの大きさのものができて、それが生き物のようにぐうっと動くのよ」

「そんなことは云わないほうがいいらしいな」そう云って益村は酒を啜った。

「もうおしまいよ」とおりうが云った、「そんなことは初めの五たびか六たび、それからあとはうんざりだったわ」

お梶にもそんなことがあっただろうか、と安宅は思った。二十歳で嫁に来たお梶は、わたくしなにも存じませんと云うだけで、いつもひっそりと眼を伏せていた。寝屋にはいっても人形を抱くようで、なんの感動もあらわさず、羞らいさえもみせなかった。自分が女であることを、そんなにも憎悪したおりうがそうであるのに、いかにも女らしくしとやかだったお梶に、そんなけぶりもなかったのはどういうことか、と安宅は心の中で反問した。

「江ノ島へ三度、大山へ一度」とおりうは続けていた、「――やれ船遊びだの螢狩りだの、汐干だの花見だのって、そう、なか(新吉原)へもずいぶん伴れていかれたわ、そうよ、なかにはあの人にのぼせあがってるひとが二人もいたわ」