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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

「それでも江ノ島へ三度、大山へゆき、くるわがよいにも伴れてゆかれたんだろう」

「あの人は稲毛ではいい客の一人で、主人夫婦が守り本尊かなんぞのように大事にしていたものですから、お供をしていけと云われれば断わるわけにはいかなかったんです、――それに、――一杯いただいていいかしら」

安宅は頷いて、膳の上に伏せてある盃を取っておりうに渡し、酌をしてやった。

「それにまだそのじぶんは」と酒を飲んでからおりうは続けた、「――嫌いといってもそれほど嫌いじゃありませんでしたし、旅をするときには二人っきりではなく、ほかにも伴れがいましたから」

「話がきれいすぎやしないか」

「袖ヶ崎へいけばわからないけれど」と云っておりうは安宅をながし眼で見た、「あたしの躯はまだきれいですよ」

「そんなことを云ってやあしない、話のはこびがきれいすぎると云ったんだ」

「そこまではね」おりうは片頬で微笑し、手の中で盃をもてあそんだ、「――そんなことをしているうちに、お家が潰れてしまったんです」

放蕩と借財に加えて、御朱引の外へ出たということが咎められた。旗本、御家人は特に許可された場合のほか、原則として江戸から外へ出ることを禁じられていた。