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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
原則には必ず裏のあるものだ。そのきびしい掟の目をくぐって、箱根や草津へ湯治にゆくとか、筑波や赤城、富士などへ山登りをするとか、水戸の浜から鹿島、香取に参詣するなど、結構よろしくやっている例も稀ではなかった。けれども、いちど公然と摘発されればれるすべはない。ことに芳村は二十三歳にもなるのに結婚もせず、放蕩のために借財も嵩んでいたから、親族の人たちも敢て周旋しようとはしなかった。
「あれはあたしがはたちの年だったわ」おりうは安宅に酌をしながら云った、「いまからちょうど四年まえね、あの人がまっすぐにあるけないほど酔って来て、三河以来の家名が潰され、自分はいま知人のところで居候をしているって、ぐちをこぼしだしました」
庭で澄んだ鳥の声が聞えた。つぐみだな、と安宅は思った。さえの父の岡野久太夫は鳥を捕るのが上手で、捕った小鳥の幾種類かは自分で飼っていた。安宅には鶯、めじろ、頬白くらいしかわからなかったが、益村家の庭からでも、久太夫の飼っているそれらの小鳥の声がよく聞えたものだ。そして冬になるとつぐみを捕って益村家へ持って来、自分で巧みに焙り焼きをつくった。祖父が好きだったからだろう、父は喰べなかったが、安宅は祖父の相伴で、毎年その焙り焼きを喰べるのがたのしみだったし、久太夫が鳥さしにゆくときついていったりして、その