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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
「いまでもぬけられないのか」
おりうは首を振り、微笑した、「この土地へ来て、あなたにお会いしてからはね、――いまのあたしは誰にだって負けやしません」
安宅が「それはいさましいな」と云おうとしたとき、廊下でなにか囁きあう声がし、すぐに障子の外でだんごが「お酒を持って来ました」と呼びかけた。おりうはだんごがはいって来ると、廊下にいたのは誰かときいた。だんごは誰もみかけなかったと首を振り、これは旦那から先生にと云いながら、酒と肴の皿をのせた盆をそこへ差出した。
「旦那が自分で釣って、自分で料理したんですって」だんごはそこへ坐って説明した、「たまごっていう魚で、白焼にして干したのをまた煮たんです、土鍋でとろ火にかけて、半日もかかって」
「もういいわよ」とおりうは盆を引きよせながら制止した、「こっちをさげてちょうだい」
だんごはつんとして出ていった。
「ここもいにくくなるばかりだわ」と云っておりうは酒と肴を膳に移した、「旦那やおかみさんまで、あたしがあなたのことをどうかするかと思ってるのよ、どうしてかしら、あたしってどこへいってもそねまれていにくくなるの、どうしてでしょう」