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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

と芳村は喉声できいた、「今夜かぎりおりうに会わないと誓えるか」

安宅はじっと相手の眼をみつめた、「誓う、と云ったら信用するか」

「そっちは侍だからな」

安宅はまた溜息を吐き、眼を伏せた。殺意はもうぬけた、この男にはもうおれを斬ることはできない、と安宅は思った。

「刀をしまってくれ」と安宅は穏やかに云った、「刀を突きつけられたままでは返辞はできない」

芳村は一と足うしろへさがり、刀をよくぬぐって鞘におさめた。安宅は静かに立ちあがり、着物のうしろを払った、躰温で溶けた雪と泥とで、そこはきみわるく濡れていた。

「さあ聞こう」と芳村が云った。

「まだだな」安宅は首をそっと振った、「おまえさんにはおれのことがわかってるようだが、おれにはおまえさんのことがなんにもわかってはいない、あの人からあらましのことは聞いたけれども、おれは人の話を信じてひどい失敗をしたことがあるんだ」

芳村伊織は鼻でふんといった、「身の上ばなしでもしろというのか」

「おれはあの人を妻にしようとさえ思っているんだぞ」

芳村は仰向いて夜空を見あげ、それから益村安宅のほうへ振り向いた。

「立ち話もできないな」