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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
(あれまた機会が逃げてしまったよ!)
こう思われて口惜しいのであった。
民弥は不思議でならなかった。
(備前屋とは距離がへだたっている。備前屋で起こした火事の煙りが、こうも濛々とこんな所まで、侵入して来る筈はない!)
忽ち屋内が騒がしくなった。
「火事だ!」
「大変だ!」
「放火だ放火だ!」
悲鳴!
足音!
叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)の声!
戸障子を開け、襖を蹴破り、器物を投げる音! 音! 音!
と、ワーッと叫喚が起こった。
「強盗だ――ッ」
「切り込みだ――ッ」
民弥はことごとに仰天し、
「梶子殿一大事! 何かこの宿に騒動起こり、放火強盗切り込みの類、起こりました様子にござりますぞ!」
梶子も今は色も恋も、おアズケにせざるを得なかった。
「ほんにどうやらとんでもない事件が、起こりましたようにござります……うかうかしてはいられません! ……急いで部屋を脱け出して……いいえこの宿を脱け出さねば……」
「さようさよう一刻も早く、この宿を脱け出さねばなりませぬが……何より大事は人形箱!」
「ほんにさようでございました! ……人形箱を取り出さねば! ……えいもうこうなればこんな人形、ほんにほんに足手まといな!」