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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
来年は雪子ちゃん厄年やさかいにな」
シュトルツ父子は三宮駅から立ったのであるが、雪子と悦子とは少しでも朝を遅らすために大阪から乗ることにしてあった。それでもそれに間に合わすためには、六時には省線電車に駈け付けなければならないので、幸子は門口まで送って行って済ますつもりでいたのであったが、シュトルツ夫人が子供たちを連れて蘆屋駅まで見送ると云うので、その明くる朝は、彼女も、妙子も、お春も、皆出かけた。
「わたし、昨夜船へ電報打ちました。汽車の時間知らせました」
と、電車を待っている間にシュトルツ夫人が云った。
「ペータアさん、きっと甲板に出ててくれはりますやろなあ」
「ええ、そう思います。エツコさん、大変親切、ありがとございますね」
そう云って夫人は、ローゼマリーやフリッツにも、
「エツコさんに有難うと仰っしゃい」
と、独逸語で命じたが、幸子たちにはその「ダンケ、シェーン」と云うところだけが分った。
「そしたら、お母ちゃん、早よいらっしゃいよ」
「ああ、二十六日か七日にはきっと行くよ」
「きっとやなあ」
「きっとや」
「エツコさん早く帰って来て下さい。―――」
と、ローゼマリーは動き出した電車を追いかけながら云った。