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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
問われれば、躊躇なく桜と答えるのであった。
古今集の昔から、何百首何千首となくある桜の花に関する歌、―――古人の多くが花の開くのを待ちこがれ、花の散るのを愛惜して、繰り返し繰り返し一つことを詠んでいる数々の歌、―――少女の時分にはそれらの歌を、何と云う月並なと思いながら無感動に読み過して来た彼女であるが、年を取るにつれて、昔の人の花を待ち、花を惜しむ心が、決してただの言葉の上の「風流がり」ではないことが、わが身に沁みて分るようになった。そして、毎年春が来ると、夫や娘や妹たちを誘って京都へ花を見に行くことを、ここ数年来欠かしたことがなかったので、いつからともなくそれが一つの行事のようになっていた。この行事には、貞之助と悦子とは仕事や学校の方の都合で欠席したことがあるけれども、幸子、雪子、妙子の三姉妹の顔が揃わなかったことは一度もなく、幸子としては、散る花を惜しむと共に、妹たちの娘時代を惜しむ心も加わっていたので、来る年毎に、口にこそ出さね、少くとも雪子と一緒に花を見るのは、今年が最後ではあるまいかと思い思いした。その心持は雪子も妙子も同様に感じているらしくて、大方の花に対しては幸子ほどに関心を持たない二人だけれども、いつも内々この行事を楽しみにし、もう早くから、―――あのお水取の済む頃から、花の咲くのを待ち設け