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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
その癖平生は、あんな非衛生的な日あたりの悪い家はないとか、あんな家に住んでいる姉ちゃん達の気が知れないとか、あたし達は三日もいたら頭が重くなるとか、雪子や妙子達とよくそんな蔭口をきくのであるが、でも大阪の家が全然なくなると云うことは、幸子としても生れ故郷の根拠を失ってしまうのであるから、一種云い難い淋しい心持がする道理であった。いったい、そう云えば、本家の義兄が先祖代々の家業を止めて銀行員になってしまった時以来、地方の支店へ転任を命ぜられると云う場合も有り得べきことになったのであるから、姉がいつ何時今の家を離れるようなことが起るかも分らなかった訳であるが、迂濶なことには、姉自身も、幸子以下の妹たちも、嘗てその可能性に想到したことがなかった。尤も一度、八九年前に福岡の支店へ遣られそうになったことがあったが、その時は辰雄が、大阪の土地を去りにくい家庭の事情があることを訴え、月給は上らなくとも現在の地位に留っていたいと云う希望を述べて許して貰ったことがあり、銀行の方でも、それからは旧家の婿と云う辰雄の身分柄を考えてくれて、彼だけは転任させられないものと認めているらしい様子だったので、はっきりそう云う諒解を得たのではなかったけれども、何となく、永久に大阪に定住出来るように思い込んでいたのであった。