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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

二十四

むら雲はやり過しつつ待ちうけて月を捉ふる庭の松が枝貞之助

名月や一つ足らざる影法師幸子

姉ちやんは東京で見るけふの月悦子

―――このあとが妙子の墨絵なのであるが、幸子の「名月や」は最初「一つ欠けたる」となってい、悦子の「姉ちやんは」は「東京で見る月夜哉」となっていたのを、貞之助がこう直したのであった。最後に、

「お春どんも書き」

と云われると、お春も直ぐ筆を執って案外すらすらと、

名月や雲の中から見え初めぬはる

と、ひどく小さな拙い字で書いた。それから幸子が月に供えた芒を一本抜いて、尾花を剪って巻紙の間へ入れた。

二十四

この寄せ書きに対しては間もなく幸子宛に返事が来、あれを繰り返し身に沁みてうれしく読んだこと、自分もこの間の十五夜には二階の窓からひとり月を眺めていたこと、あれを読んで、去年蘆屋の家で月見をした時の情景を昨日のことのように思い浮かべたこと、などを感傷的に書いて来たが、それから又暫く音信が跡絶えた。

雪子がいなくなってからは、お春が悦子の寝台の下に寝床を敷いて寝るように極めてあったが、半月ばかり立つと、悦子はお春を嫌い出してお花に代らせ、又半月ばかり立つと、お花を嫌い出して下働きのお秋に代らせた。