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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

そら、娘さんに対しては、一生懸命気に触らんようにしておいでになって、機嫌取ってはりますのんが、よう分りまっせ」

そんなことで、幸子は大体東京の模様も想像出来るような気がしたが、雪子からは矢張何の音沙汰もなかった。尤も雪子も姉ほどではないが手紙を書くことを大層がる方なので、いつもの筆不精をきめているのであろうし、それに、定まった自分の部屋と云うものがないのでは、落ち着いて物を書くことも出来ないであろうと思えもした。幸子は考えて、

「悦ちゃん、一遍姉ちゃんに書いて出してお見」

と云って、妙子の人形の絵端書に簡単な文句を綴って出させたが、それに対しても返事がなかった。

二十日過ぎになって、月見の晩に、

「今夜寄せ書きして出したらどうや」

と、貞之助が云い出したので、皆賛成して、夕食後、階下の日本間の、お月見の供え物のしてある縁側の近くに、貞之助、幸子、悦子、妙子の四人が集ってお春に墨を磨らせながら巻紙を展べた。そして貞之助が歌を書き、幸子と悦子が俳句ようのものを書いたが、妙子はそう云うものは不得手なので、松の間に月が懸かっている景色をさっと墨絵風に写生した。―――