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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

九

「いややわ、悦ちゃんは。足でした云うこと書かんかてええがな」

「そんでも、足でしたやないの」

「そら、手で触うたら気味が悪いよってに、―――」

「ふん」

と云ったが、腑に落ちないらしい顔つきで、

「そんなら、その訳書いたらええやないの」

「そうかてそんなけったいな恰好したこと、書けますかいな。先生が読まはったら、えらい行儀の悪い姉ちゃんや思やはるがな」

「ふん」

悦子はそれでもまだよく呑み込めないらしかった。

九

「明日御都合がお悪いのでしたら、十六日は大変日が吉いのだそうですが、十六日にきめて戴く訳には参りませんでしょうか」―――幸子は先日、出しなに電話に掴まった時にそう云われて、しょうことなしに承知させられてしまったのであるが、「ではまあ行って見てもよい」と云う言葉を、どうにかこうにか雪子の口から引き出す迄にはそれから二日かかったことであった。それも、井谷が双方をただ何となく招待すると云うかねての約束に従って、努めて見合いのような感じを起させないようにと云う条件附きで、当日時間は午後六時、場所はオリエンタルホテル、出席者は、主人側は井谷と井谷の二番目の弟の、大阪の鉄屋国分商店に勤めている村上房次郎夫妻、―――この房次郎が先方の瀬越なる人の旧友であるところから今度の話が持ち上った訳なので、これは是非とも当夜の会合に欠けて