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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

「君は、鵞鳥の絵をかいたことがあるかね。」

「鵞鳥の絵……ないわ。」

「一度も。」

「ええ。なぜ?」

「それじゃ話にならん。」

北村は縁台に戻ってきて、酒を飲んだ。

「これは内緒の話なんだがね……。君のお母さんはすばらしい空想家だ。」

鵞鳥を飼えば最上の泥坊よけになるという話を、富子の説に更に尾鰭をつけて披露してやった。

「それを、知人から聞いたように話すんだから、お母さんもなかなか技巧家だ。」

千重子は薄笑しながら聞いていた。北村が話し終っても、まだ微笑していた。

「嘘じゃない。ほんとの話だよ。」

「ええ、ほんとの話よ。」

「なにが。鵞鳥のことかい。」

「いいえ、それをひとからお聞きなすったということ。須永のおばさまからよ。なんかの時、ひょっとお洩らしなすったことがあるの。須永のおばさまからからかわれたことには、ちっとも気がおつきにならないんですもの。わたしだったら、須永のおばさまに御返事してあげるわ。わたくしどもでは、お説に従いまして、鵞鳥を飼うことに致しました。お宅さまでは、驢馬をお飼い遊ばしてはいかがでございますか。驢馬の肉は、牛肉よりもおいしいそうでございますし、驢馬の乳は、牛乳よりも滋養が豊かだそうでございますし、驢馬はたいへんおとなしくて、子供の遊び相手に丁度よいそうでございますし……。