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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
四
」
北村は感心したように首を傾げたが、ちらと眉をひそめた。
「とにかく、私が診察にいってあげよう。」
「お父さまの方はどうでもいいけれど、お酒の方をね。それから、わたくしがいろんなことをお話ししたこと、内緒にね。」
「分っている。どうも私は、君にまで子供扱いにされて、悲観するよ。」
却って彼は、嬉しそうだった。千重子も微笑したが、その顔はやがて、なにやら打ち沈んだ色に蔽われて、産毛の密生したような感じの皮膚が、生きた表情を失っていった。
池から広い街路と少しの焼け跡を越えて、その向うの弥生町のとっつきに、松本家は在る。二人は肩を並べて歩きながら、もう黙りこんでしまった。
四
松本家へ行って、北村庄作はちと勝手がちがった。ふだんは、富子夫人から、つんと澄した顔で迎えられ、そのすっきり高い鼻に気圧されるのだが、その日は、彼女の鼻がさほど目につかなかった。
「しばらくお見えになりませんでしたね。お忙しかったのですか。」
「お隙なのよ、小父さまは。池の端をぶらついていらしたわ。きっと喉がかわいていらしてよ。」
千重子は母へ、小賢しげな目配せをした。北村はハンケチで額を拭いた。