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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
一
一
悲しみにこそ生きむ
楽しさにこそ死なむ
この二つの文句が、どうしてこんなにわたしの心を乱すのであろうか。二つが妖しく絡みあい、わたしの胸に忍びこみ、わたしの心を緊めつけて……誘うのである。いずこへ誘うのか。何の誘惑なのか。
その文句を、わたしは思い違いしてるのではあるまいか、そんな気持ちがふっと湧くこともある。だけど、いいえ、わたしの思い違いではない。たしかにそうなのだ。あの人は、机の上の原稿用紙に、鉛筆でいたずら書きをしていた。鳶が鳴いていたので、片仮名で、ピーとか、ヒョロとか、ヒョロヒョロとか、そんなのが幾つも書き散らされてるうちに、とつぜん、悲しみにこそ、が二度つづいて、生きむ、生きむ、生きむ、と三度かさなり、それから、楽しさにこそ、が一度、そして、死なむ、死なむ、と二度で終った。たしかに、悲しみに死ぬるのでもなく、楽しさに生きるのでもない。いいえ、そんなこととは全く違う。
悲しみにこそ生きむ
楽しさにこそ死なむ
わたしにはよく理解できないけれど、感じだけは分る。二つ別々なものではなくて、一緒のものなのだ。一つだけでは意味をなさない。ヘルメスの杖についてる、二つの翼……二つの蛇……。