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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
六
「お姉さんこそ、どうかしてよ、今日は。」
「少し酔ったのよ。」
「わたしも飲もう。」
八重子もグラスを取り上げた。それから誰へともなく言った。
「もうゲームはやめるの。」
「もっとやりましょう。」と千重子が答えた。「嵐の晩の、よい思い出だわ。順一さんの打明け話を聞いたし……。」
「打明け話なら、ほかに沢山あるよ。お姉さんこそ、打明け話をしたらどうだい。」
千重子は返事をしなかった。
ウイスキーをなめながら、風の音のなかで、三人はまたゲームを続けた。
六
午後の陽のまだ高い頃、菅原洋平は紹興の店にはいって来た。スーツケースと手提鞄を卓上に投げ出し、料理場の方を覗いた。料理人の楊さんと給仕人の陳さんとが、世間話をやめて、いちどに立ち上った。
「久しぶりですね。」
「どこに行っておりましたか。面白いことありましたか。」
菅原は両腕を頭上に差し上げて伸びをした。
「今日は、特別になにかうまいものを頼むよ。何でもいい。うまいものにかつえてるんだ。痩せちゃったよ。」
よく見ると、いくらか痩せてるようでもあるし、肉がしまって却って元気になってるようでもある。眼は以前ほどまん丸く開かず、少しく眠たそうだ。