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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

十

」

「ばか言っちゃいかん。却って荷厄介さ。」

「厄介な荷物でも、無いより有った方がいいわ。」

北村は千重子の顔を見つめた。

「そんなことは、哲学者の言うことだ。詭弁家の言うことだ。」

「わたし考えたのよ。小父さまのように、ただ存在してるということだけでも何かになるという、そういう人間になりたいと……。」

「誰だって、そんな風に言えばそうじゃないか。」

「いいえ、違うわ。ちょっと説明しにくいけれど………。」

話が通じなくなると、二人はぼんやり顔を見合せて頬笑んだ。頬笑みがすべてを解決してくれるのである。

然し、その時、北村も千重子も全く予期しないことが起った。

十

台所口から顔を覗かせて、富子夫人があわただしく呼びかけた。

「そんなところで、何をしているんですか。小泉先生と、大勢いらしてるんですよ。いろいろ御用があります。北村さんも、ちょっと手助って下さい。」

富子の顔は、言葉といっしょにそこから消えた。

対外的には、つまり社交的には、富子は聊かも取り乱したところを見せない代りに、内部では、つまり家庭の裏面では、せかせか駆け廻ることがある。今ちょうど、そうしてるところだった。