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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

わたしの方では、田島さんとの話は小康を得ていた。さっぱり要領を得ないように母をごまかしておいた。先方にも、亡父の三周忌がすんでからでも、という肚があったらしい。ところへ、思いがけないことが起った。北村さんが、酔っぱらった上のことではあるが、田島章吾さんをさんざん悪口して、あんな奴は社会の蛆虫だと言ったらしい。その話を弟から聞いて、わたしは胸がどきりとした。北村さんの二階に、あの人が、菅原洋平さんが、同居しているのだ。しかし、弟は何にも感ずいていないらしいし、北村さんはたぶん、菅原さんのことなどは匂わせなかったのだろう。そして北村さんのその悪口が、いくらか母に影響を与えたらしくも考えられる。

わたしとしては、田島さんとのことばかりでなく、すべての縁談を、中ぶらりんにしておきたかったのだ。どうせ、一つを拒絶すれば、次のが現われるにきまっている。煩わしいだけだ。柳に風、暖簾に腕押し、そういうのが、いちばん巧妙な作戦らしい。どうせソロバンの中に坐らせられてるからには、じたばたすれば怪我するにきまっている。

それにしても、ああ、時々胸が切なくなるのは、なぜだろう。