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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

「こちらから伺うつもりだったんです。あちら、もう宜しいんですか。」

北村は席について、勧められるまま猪口を手にした。なにか腑に落ちない気持ちだ。

「一体どうしたというんだい。いつ旅行から帰って来たのかい。」

帰るといえば、北村の家より外にない。

菅原は微笑した。

「これから帰るところですよ。然し、この雨だから明日にしましょう。」

「なに、家へはどうでもいいが、東京にはいつ帰って来たのかね。」

「二三日前でしょうか。疲れていたものだから、少し静養したんです。」

須田がくすくす笑った。――彼は社の用で、急ぎの画稿を北村のところへ頼みに行った。北村は不在だった。菅原が旅から帰ってることを聞いていたので、北村の奥さんに尋ねると、まだ帰らないとの返事。少し不審になって、菅原の以前の居所の紹興へ、雨の中をわざわざ訪れていった。菅原はいた。二三日、ほんとに寝たっきりで暮したというのである。少し退屈になったから、碁でもうとうとここへ引っぱって来られた。すると、北村がいることが分った。

「先生、急いでお願いしたいんです。」と須田は改めて画稿のことを頼んだ。

用件をすまして須田が帰りかけるのを、菅原は引きとめた。