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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

「照常様、照常様」

と正三君はふすまを開けて、いきなり照常様の腕につかまった。

「なまいき!」

と照常様は正三君の頭を一つたたいて出ていった。

「ああ、痛い痛い」

と照彦様はねじられた腕をさすっていた。

「僕は頭をぶたれました」

「きみが?」

「ええ」

「まちがったんだろう」

「そうでしょうな」

といったが、正三君はたたかれる覚えがあるような気もした。

「遊ぼう」

「遊びましょう」

「ああ、痛い。きみがすぐ出てきてくれれば、こんなことにはならない。これからは『虎がきた』といったらとにかくすぐ出てきたまえ」

「お呼びになったらいいでしょう」

「僕だって呼びたくないことがあるよ」

と照彦様は笑っていた。

こんな具合で正三君と照彦様は行きちがうと思うとすぐまたうち解ける。一月ばかりの中に幾度喧嘩をしたかしれない。いつも照彦様が無理を通そうとして失敗する。それが一々教訓になるから、正三君もけっして無駄奉公をしているのでない。お殿様も奥様もそれをみとめていてくださる。ことに奥様は思いやりよく、土曜日が近づく毎に、

「内藤さん、けっしてご遠慮はいりませんのよ。今度こそ一晩ゆっくりお母さんのお乳を召しあがっていらっしゃい」