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おいついたゆめ
追いついた夢
山本 周五郎
「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页
こんなことを云って、和助はおけいの残した物までみんな喰べた。
「お店はどちらに在るんですか」
帰るといって和助が立ったとき、おけいは送りだしながらそうきいた。和助はあたまからとりあわなかった。
「そんなことは知らなくってもいい、こんど来ればもう二度と往き来はしないんだから、……門まで送っておいで」
こう云って玄関を出た。
彼はおけいに庭をみせてまわった。かなり広い芝生があり松林があった。裏には少し畑もあった、吾平が勿躰ないからといって、野菜を作っているのだそうである。
「こっちは見えねえし、あけて置くのはむだだからねえ」爺やは付いて歩きながらおけいにそう云った、「――これっぱかしでも旦那や御新造さんのあがるくれえは作れるだから、それにおらあも手がすいてるだからよ」
おけいは来たときから吾平ととみの人柄をみていた。口ぶりでは老夫婦はこの近くの者らしい、性質もわるぎのない朴訥なようすで、ばあいによっては力になって貰えそうな、頼もしい感じがした。
「では五六日うちに」和助は門のところでこう云った、「――早ければ二三日のうちに来るから、じゃあ……」
そして彼は坂道を西へ下りていった。