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おいついたゆめ
追いついた夢
山本 周五郎
「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页
――こんな女と十三年も暮したんだ。
彼は舌打ちをした。
――だがそれも今夜でおしまいだ。
隣の部屋には寝床が二つ並んで、十一になる和市と八歳のおさきが眠っていた。彼はその子供たちの寝姿を見てもなんの感情も起らないふうで、冷やかな一瞥を投げるとすぐに眼をそらした。
――おまえたちはおまえたちで好きなようにやるがいい、おれも自分でやってきた、誰の世話にもならなかった、……七つの年に孤児になってから、ずっと自分で働いて生きてきたんだ、おまえたちもそうすればいいんだ。
彼の顔に皮肉な嘲笑するような表情がうかんだ。……お幸が盆の上へ燗徳利と盃をのせて持って来た、彼は寝床の上に坐ったまま、独りで不味そうに酒を飲みだした。
――そうだ、ずいぶん辛い月日だった。
七歳で孤児になってから、親類さきを三軒も転々し、十二の年に銀座の両替商へでっち奉公にはいった。親類では厄介者として追い使われ、でっち奉公は過労と屈辱の日が続いた。――いつかこの取り返しはつけてやる、いまにみんなを見返してやる。寝ても起きてもそう思っていた、ほかのでっち小僧たちは屈辱を屈辱とも思わず、牛馬のようにこき使われながら、笑ったりふざけたり平気だった。