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きょうしゅうのしじん よさぶそん
郷愁の詩人 与謝蕪村
萩原 朔太郎
蕪村の俳句について「生理 1」1933(昭和8)年6月、春の部「生理 2」1933(昭和8)年8月、夏の部「生理 3」1933(昭和8)年11月、秋の部「生理 4」1934(昭和9)年5月、冬の部「生理 5」1935(昭和10)年2月、芭蕉私見(前半部分)「コギト 第四十二号」1935(昭和10)年11月、芭蕉私見(後半部分)「俳句研究 第三巻第一号」1936(昭和11)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,038 字 · 78 页
藪入りの寝るや小豆の煮える中
という句を作り、さらに春風馬堤曲を作る蕪村は、他人の藪入りを歌うのでなく、いつも彼自身の「心の藪入り」を歌っているのだ。だが彼の藪入りは、単なる親孝行の藪入りではない。彼の亡き母に対する愛は、加賀千代女の如き人情的、常識道徳的の愛ではなくって、メタフィジックの象徴界に縹渺している、魂の哀切な追懐であり、プラトンのいわゆる「霊魂の思慕」とも言うべきものであった。
英語にスイートホームという言葉がある。郊外の安文化住宅で、新婚の若夫婦がいちゃつくという意味ではない。蔦かずらの這う古く懐かしい家の中で、薪の燃えるストーヴの火を囲みながら、老幼男女の一家族が、祖先の画像を映す洋燈の下で、むつまじく語り合うことを言うのである。詩人蕪村の心が求め、孤独の人生に渇きあこがれて歌ったものは、実にこのスイートホームの家郷であり、「炉辺の団欒」のイメージだった。
葱買つて枯木の中を帰りけり
と歌う蕪村は、常に寒々とした人生の孤独を眺めていた。そうした彼の寂しい心は、炉に火の燃える人の世の侘しさ、古さ、なつかしさ、暖かさ、楽しさを、慈母の懐袍のように恋い慕った。