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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

「今一等待合にいた夫人は、当り前の女ではないようでしたが、君は気が附きませんでしたか」

「気が附かなくて。あれは、君、有名な高畠詠子さんだよ」

「そうですか」と云った純一は、心の中になる程と頷いた。東京の女学校長で、あらゆる毀誉褒貶を一身に集めたことのある人である。校長を退いた理由としても、種々の風説が伝えられた。国にいたとき、田中先生の話に、詠子さんは演説が上手で、或る目的を以て生徒の群に対して演説するとなると、ナポレオンが士卒を鼓舞するときの雄弁の面影があると云った。悪徳新聞のあらゆる攻撃を受けていながら、告別の演説でも、全校の生徒を泣かせたそうである。それも一時の感動ばかりではない。級ごとに記念品を贈る委員なぞが出来たとき、殆ど一人もその募りに応ぜなかったものはないということである。とにかく英雄である。絶えず自己の感情を自己の意志の下に支配している人物であろうと、純一は想像した。

「女丈夫だとは聞いていましたが、一寸見てもあれ程態度の目立つ人だとは思わなかったのです」

「うん。態度の reprsentativeな女だね」

「それに実際えらいのでしょう」