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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

十一

この体に大いなる生理的変動を生じたものとは思われない。尤も幾分かいつもより寂しいようには思う。しかしその寂しさはあの根岸の家に引き寄せられる寂しさではない。恋愛もなければ、係恋もない。

一体こんな閲歴が生活であろうか。どうもそうは思われない。真の充実した生活では慥にない。

己には真の生活は出来ないのであろうか。己もデカダンスの沼に生えた、根のない浮草で、花は咲いても、夢のような蒼白い花に過ぎないのであろうか。

もう書く程の事もない。夜の明けないうちに少し寐ようか。しかし寐られれば好いが。只この寐られそうにないのだけが、興奮の記念かも知れない。それともその余波さえ最早消えてしまっていて、今寐られそうにないのは、長い間物を書いていたせいかも知れない。

十一

純一の根岸に行った翌日は、前日と同じような好い天気であった。

純一はいつも随分夜をふかして本なぞを読むことがあっても、朝起きて爽快を覚えないことはないのであるが、今朝、日の当っている障子の前にすわって見れば、鈍い頭痛がしていて、目に羞明を感じる。顔を洗ったら、直るだろうと思って、急いで縁に出た。

細かい水蒸気を含んでいる朝の空気に浸されて、物が皆青白い調子に見える。