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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
十四
純一はこんな事を考えながら指が谷の町を歩いて帰った。
十四
十二月は残り少なになった。前月の中頃から、四十日程の間雨が降ったのを記憶しない。純一は散歩もし飽きて、自然に内にいて本を読んでいる日が多くなる。二三日続くと、頭が重く、気分が悪くなって、食機が振わなくなる。そういう時には、三崎町の町屋が店をしまって、板戸を卸す頃から、急に思い立って、人気のない上野の山を、薩摩下駄をがら附かせて歩いたこともある。
或るそういう晩の事であった。両大師の横を曲がって石燈籠の沢山並んでいる処を通って、ふと鶯坂の上に出た。丁度青森線の上りの終列車が丘の下を通る時であった。死せる都会のはずれに、吉原の電灯が幻のように、霧の海に漂っている。暫く立って眺めているうちに、公園で十一時の鐘が鳴った。巡査が一人根岸から上がって来て、純一を角灯で照して見て、暫く立ち留まって見ていて、お霊屋の方へ行った。
純一の視線は根岸の人家の黒い屋根の上を辿っている。坂の両側の灌木と、お霊屋の背後の森とに遮られて、根岸の大部分は見えないのである。
坂井夫人の家はどの辺だろうと、ふと思った。そして温い血の波が湧き立って、冷たくなっている耳や鼻や、手足の尖までも漲り渡るような心持がした。