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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
王子を過ぎるとき、窓から外を見ていた純一が、「ここが王子ですね」と云うと、大村は「この列車は留まらないのだよ」と云ったきり、又黙ってしまった。
赤羽で駅員が一人這入って来て、卓の上に備えてある煎茶の湯に障って見て、出て行った。ここでも、蕨や浦和でも、多少の乗客の出入はあったが、純一等のいる沈黙の一等室には人の増減がなかった。詠子さんは始終端然としているのである。
三時過ぎに大宮に着いた。駅員に切符を半分折り取らせて、停車場を出るとき、大村がさも楽々したという調子で云った。
「ああ苦しかった」
「なぜです」
「馬鹿げているけれどね、僕は或る種類の人間には、なるべく自己を観察して貰いたくないのだ」
「その種類の人間に詠子さんが属しているのですか」
大村は笑った。「まあ、そうだね」
「一体どういう種類なのでしょう」
「そうさね。一寸説明に窮するね。要するに自己を誤解せられる虞のある人には、自己を観察して貰いたくないとでも云ったら好いのでしょう」純一は目をっている。「これでは余り抽象的かねえ。所謂教育界の人物なんぞがそれだね」
「あ。分かりました。つまり hypocrites だと云うのでしょう」