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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

純一は象棋も差さず棋も打たないので、棋を打っている人を見ると、単に時間を打ち殺す人としか思わない。そう云えばと云って、何も時間が或る事件に利用せられなくてはならないと云う程の窮屈な utilitaire になっているのでもないが、象棋や domino のように、短時間に勝負の付くものと違って、この棋というものが社交的遊戯になっている間は、危険なる思想が蔓延するなどという虞はあるまいと、若い癖に生利な皮肉を考えている。それも打っている人はまだ好い。それを幾重にも取り巻いて見物して居る連中に至っては、実に気が知れない。

この群の隣に小さい群が出来ていて、その中心になっているのは、さっき電車で初めて逢った高山先生である。先生は両手を火鉢に翳しながら、何やら大声で話している。純一はしょさいなさにこれに耳を傾けた。聞けば狸の話をしている。

「そりゃあわたし共のいた時の聖堂なんというものは、今の大学の寄宿舎なんぞとは違って、風雅なものだったよ。狸が出たからね。我々は廊下続きで、障子を立て切った部屋を当てがわれている。そうすると夜なか過ぎになって、廊下に小さい足音がする。