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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

曽根という人は如才なさそうな小男である。「学生諸君は一円です」と云う。

純一は一寸考えて、「学生でなければ幾らですか」と云った。

曽根は余計な事を問う奴だと思うらしい様子であったが、それでも慇懃に「五円ですが」と答えた。

「そうですか」と云って、純一が五円札を一枚出すのを見て、背後に立っていた瀬戸が、「馬鹿にきばるな」と冷かした。曽根は真面目な顔をして、名を問うて帳面に附けた。

そのうち人が段々来て、曽根の持っていた帳面の連名の上に大抵丸印が附いた。

最後に某大臣が見えたのを合図に、隣の間との界の襖が開かれた。

何畳敷か知らぬが、ひどく広い座敷である。廊下からの入口の二間だけを明けて座布団が四角に並べてある。その間々に火鉢が配ってある。向うの床の間の前にある座布団や火鉢はだいぶ小さく見える程である。

曽根が第一に大臣を床の間の前へ案内しようとすると、大臣は自分と同じフロックコオトを着た、まだ三十位の男を促して、一しょに席を立たせた。只大臣の服には、控鈕の孔に略綬が挿んである。その男のにはそれが無い。後に聞けば、高縄の侯爵家の家扶が名代に出席したのだそうである。