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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

座席に札なぞは附けてないので、方々で席の譲り合いが始まる。笑いながら押し合ったり揉み合ったりしているうちに、謙譲している男が、引き摩られて上座に据えられるのもある。なかなかの騒動である。

ようようの事で席の極まるのを見ていると、中程より下に分科大学の襟章を附けたのもある。種々な学校の制服らしいのを着たのもある。純一や瀬戸と同じような小倉袴のもある。所謂学生諸君が六七人いるのである。

こんな時には純一なんぞは気楽なもので、一番跡から附いて出て、末席と思った所に腰を卸すと、そこは幹事の席ですと云って、曽根が隣りへ押し遣った。

ずっと見渡すに、上流の人は割合いに少いらしい。純一は曽根に問うて見た。

「今晩出席しているのは、国から東京に出ているものの小部分に過ぎないようですが、一体どんなたちの人がこの会を催したのですか」

「小部分ですとも。素と少壮官吏と云ったような人だけで催すことになっていたのが、人の出入がある度に、色々交って来たのですよ。今では新俳優もいます」

こんな話をしているうちに、女中が膳を運んで来始めた。

土地は柳橋、家は亀清である。純一は無論芸者が来ると思った。