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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

一体夫人の言語や挙動には suggestif な処があって、夫人は半ば無意識にそれを利用して、寧ろ悪用して、人の意志を左右しようとする傾きがある。若し催眠術者になったら、大いに成功する人かも知れない。

坂井の奥さんが箱根へ行く日だと思った跡で、純一の写象は暗中の飛躍をして、妙な記憶を喚び起した。それは昨夜夜明け近くなって見た夢の事である。その夢を見掛けて、ちょいと驚いて目を醒まして、直ぐに又寐てしまったが、それからは余り長く寐たらしくはない。どうしても夜明け近くなってからである。

なんでも大村と一しょに旅行をしていて、どこかの茶店に休んでいた。大宮で休んだような、人のいない葭簀張りではない。茶を飲んで、まずい菓子麪包か何か食っている。季節は好く分からないが、目に映ずるものは暖い調子の色に飽いている。薄曇りのしている日の午後である。大村と何か話して笑っていると、外から「海嘯が来ます」と叫んだ女がある。自分が先きに起って往来に出て見た。

広い畑と畑との間を、真直に長く通っている街道である。左右には溝があって、その縁には榛の木のひょろひょろしたのが列をなしている。