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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
夫人は足を留めて連れの男を顧みた。四十を越した、巌乗な、肩の廉張った男である。器械刈にした頭の、筋太な、とげとげしい髪には、霜降りのように白い処が交っていて、顔だけつやつやして血色が好い。夫人はその男にこう言った。
「小泉さんと云う、文学をなさる方でございます」それから純一の方に向いて云った。「この方は画家の岡村さんですの。やはり福住に泊っていらっしゃいます。あなたなぜ福住へいらっしゃらなかったの。わたくしがそう申したじゃありませんか」
「つい名前を忘れたもんですから、柏屋にしました」
「まあ忘れっぽくていらっしゃることね。晩にお遊びにいらっしゃいましな」言い棄てて、夫人が歩き出すと、それまで二王立に立って、巨人が小人島の人間を見るように、純一を見ていた岡村画伯は、「晩に来給え」と、谺響のように同じ事を言って、夫人の跡に続いた。
純一は暫く二人を見送っていた。その間店の上さんが吊銭を手に載せて、板縁に膝を衝いて待っていたのである。純一はそれに気が附いて、小さい銀貨に大きい銅貨の交ったのを慌てて受け取って、皮の蝦蟇口にしまって店を出た。
対岸に茂っている木々は、Carnaval に仮装をして、脚ばかり出した群のように、いつの間にか夕霧に包まれてしまって駅路の所々にはぽつりぽつりと、水力電気の明りが附き始めた。