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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
純一は坂井先生の名を聞いていたという返事をして、奥さんの顔を見ると、その顔には又さっきの無意味な、若くは意味の掩われている微笑が浮んでいる。丁度二人は西の階段の下に佇んでいたのである。
「上へ上がって見ましょうか」と奥さんが云った。
「ええ」
二人は階段を登った。
その時上の廊下から、「小泉君じゃあないか」と声を掛けるものがある。上から四五段目の処まで登っていた純一が、仰向いて見ると、声の主は大村であった。
「大村君ですか」
この返事をすると、奥さんは頤で知れない程の会釈をして、足を早めて階段を登ってしまって、一人で左へ行った。
純一は大村と階段の上り口に立っている。丁度 Buffet と書いて、その下に登って左を指した矢の、書き添えてある札を打ち附けた柱の処である。純一は懐かしげに大村を見て云った。
「好く丁度一しょになったものですね。不思議なようです」
「なに、不思議なものかね。興行は二日しかない。我々は是非とも来る。そうして見ると、二分の一の probabilit で出合うわけでしょう。ところが、ジダスカリアの連中なんぞは、皆大抵続けて来るから、それが殆ど一分の一になる」