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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
ふいと墓地の横手を谷中の方から降りる、田舎道のような坂の下に出た。灰色の雲のある処から、ない処へ日が廻って、黄いろい、寂しい暖みのある光がさっと差して来た。坂を上って上野の一部を見ようか、それでは余り遅くなるかも知れないと、危ぶみながら佇立している。
さっきから坂を降りて来るのが、純一が視野のはずれの方に映っていた、書生風の男がじき傍まで来たので、覚えず顔を見合せた。
「小泉じゃあないか」
先方から声を掛けた。
「瀬戸か。出し抜けに逢ったから、僕はびっくりした」
「君より僕の方が余っ程驚かなくちゃあならないのだ。何時出て来たい」
「ゆうべ着いたのだ。やっぱり君は美術学校にいるのかね」
「うむ。今学校から来たのだ。モデルが病気だと云って出て来ないから、駒込の友達の処へでも行こうと思って出掛けた処だ」
「そんな自由な事が出来るのかね」
「中学とは違うよ」
純一は一本参ったと思った。瀬戸速人とはY市の中学で同級にいたのである。
「どこがどんな処だか、分からないから為方がない」
純一は厭味気なしに折れて出た。瀬戸も実は受持教授が展覧会事務所に往っていないのを幸に、腹が痛いとか何とか云って、ごまかして学校を出て来たのだから、今度は自分の方で気の毒なような心持になった。