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あだこ
あだこ
山本 周五郎
「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页
しかし九十日ほどいたが、店の若い者たちがいやらしくからかうし、手代の一人は寝間へ忍んで来たりするので、支配人の妻女に告げて暇をもらった。そのとき、妻女の口ききで請け人宿の世話になり、一年ばかりのあいだに四カ所も奉公をしたが、どこも長くはいられなかった。三軒は商店、一軒は料理茶屋であったが、どこでも店の若い者にいやなことをされる。一軒では主人が、それも五十幾つかになり、孫のある人が、力ずくでいうことをきかせようとした。それでそこをとびだしたので、請け人宿の世話になれなくなったが、武家ならばそんなみだらなこともないだろうし、わけをよく話せば、請け宿がなくとも使ってくれるかもしれない。そう思って、この麹町一帯を歩きまわった。
その日は平河天神の社殿の床下で寝た。その夜はこころぼそさのあまりよく眠れず、こんなふうに歩きまわっても、雇ってくれる家はみつかるまい。いっそ請け人宿へ戻って詫び、もういちど、宿の世話になろうか、などと思ったりした。
「でもそこが、あたしの運のいいところだったんですね、次の朝になって、念のためにもういちどと思ってまわっているうちに、このお屋敷にゆきあうことができたんです」