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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
と俺は北槻中尉に低い声で言った。
「君が……?」
まるでガンツケ(眼で因縁をつける)みたいな、中尉のその眼には、軍人独尊の光があった。
「あたしがやる」
俺は静かに言った。
「あんた方はまだまだ大事な仕事をして貰わねばならん身体だ」
「若いくせに老成ぶったことを言う」
北槻中尉は笑った。
「いやいや、俺は死にぞこないの人間だ。いつ死んでもいい人間なのだ」
俺はここで尾垣大将を暗殺することによって、テロリストとして信念を貫くことができるのだと思った。
「恩赦があるから、まあ、十年とツモって、十年つとめて出てくれば、いい顔だ」
右翼の若い者たちの間で、そのころ、そういう言葉が半ば公然と言われていた。俺の前でも平気で言っていた。殺す相手が大物であればあるほど、ハクがついて、ムショ(刑務所)から出たあと、いい顔で通れるという。そして事実そうなのだ。
口では天下国家を論じながら、しょせんは私利私欲のため、売名のため人を殺す、そういうのを俺は唾棄すべき根性と考えていた。だが北槻中尉たちからは、この俺も――尾垣大将の暗殺をみずから買って出た俺は、顔を売るためと見られたかもしれないのだ。