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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

北槻中尉たちはしかし、ほんとは自分らの手でやろうと思ったのかもしれない。なかなかピストルをくれなかった。かかる重大な任務の遂行を民間人にゆだねるのを潔しとしない気持も分る。

だが、やがて、いやでも俺にまかせなくてはならない事態が発生した。

尾垣大将が陸相をやめたのだ。そして朝鮮総督になって京城に赴任したのである。

京城まで行って、それをつけねらうのは現役の軍人では無理だった。第一、イガ栗頭ではたとえどんな変装をしても、目立って駄目である。

刺客は民間人がなるよりほかはない。ここで初めて俺はピストルを手渡された。

ざまあ見ろと俺は心のなかで叫んだ。ひやっこいピストルを俺は胸に抱いて寝た。

東京を去るに当って、俺はアナーキストの仲間に会いたいと思ったが、酔ってうっかり変なことを口走ってもと、それを思いとどまった。俺は切ない孤独感に噛まれた。

俺はピストルを撫でて、切なさをまぎらせた。いっときもピストルだけは手離さなかった。

北槻中尉が俺のために壮行会を開いてくれた。と言っても、中尉のほかに青年将校が三人来ただけだ。

大森のカニ料理屋の一室である。あけ放った窓から、涼しい風が吹きこんでくるが、早くも夏が来たような暑さだったから、汗ばんだ肌を海風はねばつかせて、気色が悪い。