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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「なーに、それ?」

「なんでもない。さきに行っといでよ。あとで、ゆっくり……」

俺は女を追い払うように手を振っていた。

ひとり残された俺は、やはり肌寂しいおもいだった。マワシをとっている若紫に、ジンスケ気味になるほど、俺は惚れていたわけではないが、俺と世帯を持ちたいと言った言葉は、俺の耳に残って離れない。おいらんの手練手管と一笑に付しては可哀そうだ。

おいらんと世帯を持って、駄菓子屋かなんかやるのも、悪かねえな。おだやかにつつましく陋巷に生きる人生も悪くはないと思うが、今さらそんな自分を夢想してもはじまらない。

どこからか、レコードの「浅草行進曲」が聞えてくる。「恋の灯かがやく、真赤な色に、胸のエプロン、どう染まる」――これは知っているが、あとの歌詞は知らない。

化粧なおして誰知らさねど

今宵ひと夜のいのちなら

夢の浅草 なみだ雨

知らない三節目の歌詞が、くだらねえと思いながら、今夜の俺には身にしみる。今宵ひと夜のいのちなら――こいつがいけねえ。

(畜生!)

俺はそっと敷蒲団の下に手をひそませた。そこに隠したピストルのひんやりとした感触をもとめて、手を泳がせる。