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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「憲兵でなかったら、尋問に答えない? 憲兵を呼んでくるか」

「呼んで貰ってもいいが」

こいつはいけねえと、俺はシモノセキを――カバンのことだ、馬関の逆語だ、そのカバンを持ちかえて、その間に、ごまかしの言葉を考えて、

「ここは、あんた方の所管でしょう」

言いながら、相手に見せる自分の身分証明書でも、さも取り出そうとするような恰好で、のろのろとカバンをあけにかかると、

「いや、いいでしょう」

見せなくてもいいと相手は手に言わせて、

「それには及びません」

こっちがおとなしく出ると、相手も折れて、特務機関の者みたいに俺が装ったのをそのまま受け取って、

「失礼しました」

急に卑屈な態度になった。

「いや、ご苦労さん」

俺は鷹揚に言った。見事なトントン(ごまかし)だと俺はいい気持だったが、いい気持の俺自身、内心いささか恥を感じないでもなかった。

虎の威をかりるキツネとはまさに俺のことだ。純粋なテロリストとして死のうとしている俺なのに、そんな俺としたことが、軍をカサに着ている。

北槻中尉とつきあってから、こういう要領(軍人はこの要領ということを口ぐせのように言う)を覚えたのだが、俺もいつしか自分から右翼の国士気取りを身につけていたところもある。