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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

波子は眼をギラギラ光らせて、

「だから、昼間、何かあたしに頼むことないかって聞いたでしょう」

俺の膝に手をやって、ゆすぶるようにして、

「頼まれたらそのとき、ちゃんと前もってあたしが預かってあげたのに……。預かってあげようと思って聞いたのに、お客さんたら、何も頼むことないと言うから、あたしはそのまま放っておこうと思ったの。でも、憲兵が来たとき……」

「なに、憲兵が来たのか」

俺は波子と膝をくっつけあっていた。

「そうよ。こういう男がいるだろう、部屋はどこかって。お帳場でそう言ってるの。そのとき、あたし、何も頼まれもしないのに、よけいなことをするみたいだったけど、あれを持ってかれたら大変だろうと思って、憲兵が部屋に行かない前に、さっとここへ駈けあがって、見つからないうちにあれを持ち出しといたの」

「そうか。そいつは、すまなかったな」

俺はこくんとお辞儀をして、

「ありがとう」

と礼を言った。そしてピストルを返してくれと手を出すと、

「また、来るわよ。来たことを黙ってろと、みんな、家の人たち口どめされたの。早く東京へ帰ったほうがいいわ」

すぐにも発てるように、波子は俺にかわって、身回り品をトランクに片づけたと言う。